「ビジョンを語って人を巻き込み、もっと熱量高い組織に」 オリエンタルランド 井上雄太さん -後編-
前回に続き、株式会社オリエンタルランド(以下、OLC)の井上雄太(いのうえ・ゆうた)さんの、レンタル移籍のストーリーをお届けして行きます。前編では、レンタル移籍に挑戦しようと思うきっかけとなったオリエンランドの従業員への思いや、マイファームでのプロジェクトに邁進する様子をお届けしました。後半では、与えられたミッションではなく、自ら企画を立てて新規事業にチャレンジする話、そしてOLCに戻った今、移籍を通じてどんな変化を感じているのかを伺いました。
1.自らのビジョンを自分の言葉で語る
「0〜5歳の子ども達に、農に触れる体験を通じた成長機会を!」
体の底から湧き上がるその思いが、井上さんを突き動かした。
移籍して3ヶ月で、すでに自称「マイファーム信者」というほどにマイファームが大好きになっていた井上さん。マイファームで成果を残したい気持ちと、大好きなマイファームのノウハウを生かして保育事業を立ち上げたいという気持ちで、どんどん行動に移していった。
保育園への営業の壁は高い。いきなり電話しても、「株式会社」と口にするだけで電話を切られる。それでも何とかして保育園と繋がりを作ろうと、保育園協会が主催するイベントに足を運ぶ。そこで、とある地区の園長会の会長さんと接点ができ、マイファームの話をした。「子ども達に農に触れる体験を通じた成長機会を」という自らのビジョンを語り、事業に関心を持ってくれることができた。
井上さんはレンタル移籍開始直後に、社長の西辻さんが「ヒトが自然に関わる機会を増やせれば、世界を平和にできる」と、簡潔にビジョンを語る姿に感銘を受け、自分も語れるようになりたいと思ったという。
「『世界を平和にする』なんて、恥ずかしくも聞こえてしまうような言葉じゃないですか。でも、西辻さんの生の言葉で聞いた時、恥ずかしいことなんかじゃない、むしろ、そんな世界は作れると本気で思えたんです」
そう、井上さんも、社長の西辻さんのように、自らのビジョン自分の言葉で語れるようになっていたのだ。練習したわけでも台本を作ったわけでもない。自然にできるようになったのは、彼がもう「レンタル移籍の人」ではなく「マイファームの人」になっていたから。
その言葉は会長さんの心も動かした。そしてその会長さんをきっかけに、保育事業案件の立ち上げに漕ぎ出し始めた。
2.移籍3ヶ月間で集め続けた農業知識が提案に結びつく
井上さんは、まずは会長さんにマイファームが展開している体験農園を紹介し、会長さんが関わっている自治体の保育園に案内を出してもらった。しかし、返ってくるのは「そもそも子ども達を連れて畑までいくのは大変である」という大多数のフィードバック。
これには井上さん自身にも思い当たる節があった。
「マイファームで体験農園を活用して農体験を提供しているお客さんの中には、保育園の方もいるのですが、たしかに大変そうでした。園児を連れて電車で体験農園まで来てもらって収穫体験プログラムをやるのですが、お昼ごはんやお昼寝の時間に合わせて急いで帰ります、みたいな感じで30分も体験すればすぐに電車に乗って帰る。先生も子ども達も大変ですよね。天候にも左右されるし。それなら、保育園に作るか、マイファームが行けばいいと思ったんです」
しかし、それまでマイファームでは、畑に来てもらうのが前提で、鉢やプランターでの農作物作りはあまり実施例がなかったという。
「マイファームに来て初めて自分で野菜を作ってみて感じたことですが、畑で作るのとプランターで作るのでは、出来が全然違うんです。畑の力はすごい。根を張る土の量が違いますから。でも、会長さんの保育園に行った時に、『この屋上は使えますか?』と聞かれて。僕も屋上菜園の案件に何回か連れて行ってもらったことがあり、土は1平方メートルに何kgまでしか載せられないとか、水の流れがどうなっていればできるかなど、田村さんから教わっていました。だから保育園で話を受けた時に『これなら作れる』って思ったんです。屋上があるなら屋上に菜園を作らせてもらおう。畑を作り、そこで野菜を育てて、我々が行って管理し、出張の形で体験プログラムをやれたらと思い、提案しました」
農業の知識は全くなかった井上さんが、移籍後に集め続けてきた農業に関する知識が提案に結びついた瞬間だった。
3.これまでに感じたことのない達成感
保育園への提案は、見事に通った。保育園の屋上を菜園化し、その畑での1年間の食農プログラムの受注が決まる。あと数週間でレンタル移籍が終わるという11月半ば頃のことだった。
企画案に沿って課されたタスクをこなしていく「ハタムスビ」の案件とは異なり、ゼロから自分で企画を検討し、営業提案して決まった案件。今までの業務では感じたことのない達成感でいっぱいだった。施工スケジュールを詰めていくと共に、この先、マイファームが提供する農体験のモデルケースとして、都内での屋上菜園化を展開できるよう調整を進める。
「できる、できる、できる」
移籍直後から上がりっぱなしだった感情曲線は、最後の最後でさらにぐぐっと上がった。
保育園の屋上菜園での1年間の食農プログラムが実際に開始するのは2020年4月から。菜園を屋上に作るのは先行して進め、2019年12月には完成した。
「11月のレンタル移籍終了後でしたが、有志で行って、保育園の使っていない屋上のスペースを菜園にして、農作物をみんなで植えて帰ってきました」
そう話す井上さんの表情は達成感そのものだ。
井上さんが実際に手掛けた保育園の屋上菜園
レンタル移籍最終日には、ハタムスビの農園があるホシノタニ団地の中で行われた「ホシノタニマーケット」というイベントに出展。この日のために「親子で学ぶ」をテーマに企画してきた子ども向けの野菜づくり体験講座は大盛況に終わった。子ども達の笑顔や、親子の会話から、「農に触れる体験は、子ども達の成長機会になる」という自らのビジョンに迷いがないことを確信したのだった。
レンタル移籍最終日に出展したホシノタニマーケット当日に、マイファームのスタッフと
4.リーダーとしての覚悟、そして人との関わり方
ボルテージが上がりっぱなしのままレンタル移籍は終了し、2019年12月にOLCに戻ってきた井上さん。元々いたレストランのスーパーバイザー業務に復帰し、2020年2月に再びまた別のレストランのスーパーバイザーとして異動になったという。レストランは違えど、業務自体は以前と同様の内容である。戻ってきてみて、何か自分の変化は感じているだろうか。
「責任者として、AかBかCかと問われた時に、今までだったらうーんと迷っていた。でも失敗してもいいから、責任者だからAと言い切れるようになりました。Aが間違っているかもしれないが、Aと決めきってリーダーとしての覚悟を示す。ベンチャーのスピード感は、そういう『とりあえずやってみよう』という決断も早ければ、決断したら動くというスピード感から来ていると実感したからですね。うだうだ考えて時が過ぎていくくらいなら、今すぐやろうと思って動けるし、口にもできるようになったのは、いい感じで変われました。マインドセットが活かされていますね」
また、人との関わり方にも変化があった。OLCでは、扉さえ開いていれば、何もしなくてもお客さんが来てくれる。販促に苦労したことなどなかったが、マイファームで「ハタムスビ」を立ち上げ、集客に苦労し、1人契約するだけでもいかに大変かを身をもって感じた井上さんは、OLCでは人に対してそこまで誠実でいられていなかったかもしれないと気づいた。
「どんなにいい設備や仕組みがあっても、最後に使うのは結局、人です。だから、人に対して、それは、社員に対してもお客さんに対しても、誠実でありたい。ヒトを育成する立場だからこそ、それぞれとの接点をもっと大切にして、働きやすい職場環境を作りたいと思っています」
ベンチャーから帰ってきて浮かれているように見られないよう、ベンチャー熱は落としてトーンダウンしているそうだが、それでもビジョンを語る姿勢は生き続けたままだ。他の従業員と「仕事とはこうあるべきだと思う」という話や、「何したいんですか」という問いかけをよくするようになった。従業員との接点の数を増やし、その接点を密にするようなコミュニケーションを取るよう、以前より強く意識するようになったと言う。
もちろん、ベンチャーに行ったから、何の不安や焦りもなくなったというわけではない。「魅力的な組織にしたい」という、長期的プロジェクトになりそうな目標を掲げる自分のような人よりも、短期的な成果を持ち帰れる人を移籍させたほうがよかったのでは?と不安になることもある。また、仕事に対する熱量は人それぞれで、全ての人とのコミュニケーションがうまくいくわけでもない。
それでも、マイファームで保育事業を立ち上げようと、上司や社長の心をも動かし、自ら設定した目標に向けて実現した井上さんならば、少しずつでも、たくさんの人を巻き込み、さらに熱量の高い組織を作っていくことができるだろう。
井上さんの挑戦は、まだまだ続いていく。
マイファームでの送別会での1枚。上司の田村さんから渡された色紙に書かれた「また絶対 一緒に野菜作りましょう!」のメッセージを見た瞬間に、涙が止まらなかったとか
Fin
▼関連記事
「ビジョンを語って人を巻き込み、もっと熱量高い組織に」 オリエンタルランド 井上雄太さん -前編-
【マイファームさんより、人材募集のお知らせ】
株式会社マイファームでは、「自産自消が当たり前の社会を目指して」を理念に、新しい強い農業人を育み、野菜作りって楽しい、農業って楽しいって興味を持っていただける方を世の中により多くするために様々な活動を行っています。
自らも農業人の一人となり、井上さんのように熱量を持って本気で仕事に取り組んでみようと思った方は、期間限定でも短期間でもビジョン次第では幅広く活躍いただけます。
ご興味があられる方は、一度マイファームのホームページをご覧になってみてください。→採用情報はこちら
【オンラインセミナー開催のお知らせ】
2020年4月9日(木)に、「ベンチャー企業の働き方から探る、主体性のある人材・チームの作り方」のオンラインセミナーを開催します。(主催:株式会社ローンディール)
リモートワークがうまくいく人材・組織とは?
レンタル移籍者の経験から探る「新しい働き方」
リモートワークやオンライン会議が増え、大企業の働き方やマネジメントスタイルが変革を迫られています。一方で、ベンチャーは元々リモートを導入している企業も多く、働き方という観点ではそこまで大きな影響は見られません。リモート等の柔軟な働き方が成功している組織の背景には、以下のような共通点があるように見受けられます。
・各スタッフが指示を受けずとも主体的に動いている
・対面でなくても信頼関係が築けている
・オンラインに最適なツールが導入されている
ローンディールは、大企業からベンチャー企業に、出向・研修制度を使い人材を一定期間派遣する「レンタル移籍」を提供しています。本セミナーではベンチャーと大企業の両方を経験しているレンタル移籍経験者の方々をお招きし、ベンチャーでの実体験を伺いながら、フレキシブルな働き方を実践するヒントを探ってまいります。セッションを通して、大企業においての次なる働き方や人材育成・組織作りの方向性を考える場になればと思っています。
企業の人材・組織開発ご担当者さま、新しい働き方の導入に携わる皆さま、ぜひご参加ください。
<登壇者>
・株式会社ローンディール 代表取締役社長 原田未来
・レンタル移籍経験者(2~3名を予定。詳細は当日お知らせします)
◇開催概要
●日程:2020年4月9日(木)
●時間:14:00~15:00
●対象:大企業の人事・人材開発部門、新規事業開発部門、ならびに新しい働き方の導入に携わる方
●会場:オンライン開催。ZOOMにて配信予定。
※視聴先については、お申込後にご案内いたします。
●参加費:無料
<お申し込み>
こちらよりお申込みください
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計36社95名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年4月実績)。→詳しくはこちら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?