「ベンチャーを経験した2人が目指す、三越伊勢丹のイノベーションと変革」井上匠さん × 鳥谷悠見さん
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「ベンチャーを経験した2人が目指す、三越伊勢丹のイノベーションと変革」井上匠さん × 鳥谷悠見さん

2019年10月から半年間のレンタル移籍を行った、三越伊勢丹の井上匠(いのうえ・たくみ)さんと鳥谷悠見(とりたに・ゆうみ)さん。井上さんは農業と食に関する事業開発などを行うアグリホールディングスへ、鳥谷さんはAIとブロックチェーンを使ってアイドルを作るサービスを提供するジーンアイドルへの移籍を経験しました。
同時期の移籍ということもあり、期間中から連絡を取り合い、現在もそれぞれの知見を共有しているという二人。戻って1年半が経った今、ベンチャーで手に入れたマインドやスキルを活用して、どのような活動をしているのでしょうか? 改めて語ってもらいました。

フェーズの違うベンチャーでの経験を共有

——井上さん、鳥谷さんのお二人は違う部署の所属ですが、交流はあるのでしょうか?

井上:ベンチャーに行っている間は、よく連絡を取り合っていましたね。お互いがアウェイの環境で働いているので、頻繁に「どう?」って報告しあったり、業務後に他の出向者も交えて懇親会をしながら自分のいるベンチャーのことや今どんなことで困っているかといった悩みを共有したり。他の出向者も交えながら、話すことで視野が広がりました。

鳥谷:こまめに状況をシェアしていましたね。そのやり取りの中で新しい人とつながったこともありますし、お互いの三越伊勢丹でのバックボーンがわかってきて、自社に再フォーカスして気づきを得ることもありました。

——それぞれのベンチャーでの経験について、改めて教えてください。

井上:もともと伊勢丹浦和店のデパ地下フロアの食品マネージャー業務を担当していて、農業と食に関する事業開発などを行うアグリホールディングスに移籍をしました。オフィスワーカーに向けて健康をテーマとする弁当販売事業「BENTO-LABO」の担当になり、マーケティングを中心に行いながら、半年間で赤字事業を黒字に転換するスピーディーなビジネス構築を経験しました。

移籍当時のお写真:ビジネス構築に加え、弁当づくりにも関わっていた井上さん


鳥谷:
新宿伊勢丹にあるオーガニックショップ「ビューティアポセカリー」でアシスタントバイヤーとして6年半働いていました。私が行ったのは、ジーンアイドルというベンチャーで、そこではマーケティングマネージャーを経験しました。ジーンアイドルはAIとブロックチェーンを使って、実在しないアイドルを作るサービスを提供する会社です。

事業のプロトタイプを、実際にビジネスに展開していく過程を全てを担当しました。当時は、私以外のスタッフは基本的にエンジニアやプロダクトマネージャー。事業計画の検討や営業、PR活動を行いながら、ゼロイチの立ち上げに携わりました。

移籍当時のお写真:AIアイドルのプレゼンをする鳥谷さん

井上:僕はどちらかというと1を10にしていく業務内容だったのですが、鳥谷さんは本当に0からの立ち上げだったんですよね。シード段階の企業で多岐にわたる業務をこなしている姿は、ベンチャーらしい立ち上げを経験しているようでうらやましく感じていました(笑)

鳥谷:すごく魅力的に話してくれていますが(笑)、本当に0から1で何をしたらいいかわからないし、すぐに成果が出ないし、自分で選んだとはいえ当時は葛藤や悩みも多かったです。井上さんは自分が持っているスキルセットや人脈、経験値を踏まえながら、それをどう今までと違う環境で活かすか、自分のWILLに向かってどう磨いていくかを考えていましたよね。模索しながらもロジカルに行動していて、経験が積み上がっていく様子がいいなと思って見ていました。

井上:全然ロジカルではなかったです(笑)。やれることをやる中で、たまたま突破口が見出せただけで。

——ベンチャーでの経験といっても、鳥谷さんはゼロイチ、井上さんは1から10と、その体験は大きく異なっていたんですね。

井上:そうですね。鳥谷さんの話を聞いていると「そういう世界もあるんだ」と、自分の環境ではできない学びが共有される感覚がありました。それぞれがフェーズの違うベンチャーを選んでよかったと感じています。

移籍で得た学びが活きている

——移籍から戻って1年半ほどが経ちますが、現在はどんな業務を担当しているのでしょうか?

井上:関連子会社やグループ会社の経営管理や事業開発を行う部署に在籍しています。帰任直後は、ベンチャー協業やCVCを行なっている企業を担当していました。ベンチャーがどんなアセットやマインドセットで業務にあたっているかを理解している自分が潤滑油となれる場所で、得た学びを直接活かせる業務でしたね。

今は担当が変わって、飲食・レストラン系のジョイントベンチャーに携わっています。三越伊勢丹トランジットという、レストランのライセンスビジネスを行うトランジットジェネラルオフィスという会社と三越伊勢丹ホールディングスの合弁会社です。


最初は不安もありましたが、現在、ゴーストレストラン事業(店内で飲食ができず、キッチンスペースのみがあり宅配で提供する店)を展開しようという構想を練ったり、たまたま移籍中にゴーストレストランに関わったことが役に立つなど、めぐりめぐって経験を活かせていると感じます。

業務では、新しい商品の開発に携わることも多くあります。中には鳥谷さんが知見を持っている商品もあるので、その時は色々と意見やノウハウを聞いていますね。鳥谷さんは知識が豊富ですし、互いにベンチャーで事業を起こした経験があるので共通言語も多く、相談しやすいんですよ。

ゼロイチで事業創造に携わったことが活きた


——鳥谷さんは現在、百貨店事業のサステナビリティ推進を担当されているとか?

鳥谷:もともと環境や社会課題解決に興味があり、新規事業を立ち上げたいと思っていました。これまでオーガニックショップで働く中で、環境に配慮された製品や動物実験をしていないもの、フェアトレード、ヴィーガンの製品などに触れ、興味を強くしていったんです。でも、そうした製品を作っているのは小規模なところが大半で、社会課題を解決しようと思っても資金調達がうまくいかないというケースもよく目にしていて、歯痒い思いをしていました。なので、それを解決するような仕組みを作りたいと思っていたんですね。

帰任後はブランディング部門に配属となりました。三越伊勢丹グループの百貨店事業に関するブランディングを目的に、私が帰任するタイミングで新設された部門です。ブランディングを進める上で、今後サステナビリティの視点は不可避。何かアクションすべきだという風潮が社会的に高まる中で、私が担当になりました。

——現在の事業のやりがいや難しさを教えてください。

鳥谷:やりがいは、百貨店事業全体が対象なので、一つ一つのアクションの波及効果が大きい点。三越伊勢丹では、21年4月からサステナビリティメッセージとして「think good」を掲げました。これに紐づく形で三越伊勢丹としての重点取組やステートメントを設定しており、ここから、様々な取り組みが設計されていきますし、取引先、ステークホルダーの方が実際にサービスを検討してくださるのはやりがいですね。

一方で井上さんともよく話すのですが、大きな組織の中でなかなか合意形成ができないことは課題だと感じます。また、私の部署は方針策定や起案を担っているので、議論の抽象度が非常に高いんですね。もしベンチャーにいく前にこの部署に入っていたらついていけなかっただろうなと思います。ゼロイチで事業創造に携わったことで、対応できているのだと感じています。

「とりあえずやってみよう」の精神が育まれつつある     

——合意形成が難しいというのは、意思決定のはやいベンチャー企業を経験したからこその気づきではないかと思います。やはりベンチャーを経験する前と後では、見える景色も変わったのでしょうか?

井上:そうですね。私が帰任後に一番感じたのが、戦略の立て方が大企業とベンチャーではまったく違うということでした。大企業は自社のポジショニングやリソースを念頭において戦略を構築しますが、ベンチャーはラーニングベースで進めていきます。もちろんポジショニングも設計しますが、学習をもとに柔軟に戦略を変えていくんです。

ベンチャーが学習しながら、試しながら、戦略をどんどん変えていく間、大企業はずっと戦略を考え続けている。だから自分がやりたいスモールテストがあっても「戦略は?」「ポジショニングは?」という段階で止まってしまうことが多くて、この点は課題に感じていました。

鳥谷:めちゃめちゃわかります。

——そんな中で、状況を打開するためにどんなアクションを取ったのでしょうか。

井上:お金をかけずにファクトを取ってくるようにしていました。お金をかけなければ文句は言われないので(笑)。グループ全体のさまざまな部署にヒアリングして、「これがほしいと言われているんです」という意見を集めて提示し、「これが本当に現場が求めていることです」というファクトをベースにしてで働きかけるようにしていました。

ただ、会社も少しずつ変化してきていて、今年度はスモールテストをまず実行してみて検証するようになるなど、「とりあえずやってみよう」の精神が育まれつつあります。これは別に僕たちが働きかけてきた成果がすぐにでたというわけでは決してありません(笑)。益々先の見えない世の中において、今までのやり方が通用しなくなり、ベンチャー企業が台頭して、実践してきたやり方が世の中に成果と共に認められてきたからだと思います。これからの時代にフィットしていくには、ベンチャー的なラーニング戦略が必要だということですね。

常にチャレンジしたいというマインドになった

——ベンチャーのやり方を取り入れる中で、ますますお二人の活躍の幅が広がっていきそうですね! マインドの変化も教えてください。

鳥谷:人を巻き込むことの重要性を感じたし、行動するようになりました。これは新しく培ったというよりは、もともとあったマインドが移籍を経てより強くなったと感じています。どうすれば周囲の人と協働できるか意識しながら動くようになりましたし、組織として向かうべき方向性と自分がやりたいことを客観的にみて、どう振る舞うのが効率的かをすごく考えるようになりました。

移籍前は長く同じ仕事をしていたので、取引先含め、ある程度相互理解の上で仕事をしていました。ベンチャーで見ず知らずの方々とコミュニケーションをとり続ける環境に身を置いたことで、まわりの方が何を考えているのかより考えるようになりましたし、真逆の考え方でも、WILLに重なる部分があるなら一緒に動きたい、仲間を増やしたいという思いがより強くなりましたね。

現在のサステナビリティ推進も、会社から同意を得てやっているものの、まだまだ社外はもちろん社内への浸透も始まったばかりです。どうすれば共感していただけるか、日々考えながら働いています。

伊勢丹新宿店でアップサイクルをテーマに全館キャンペーンを開催。ウィンドウ前に立つ鳥谷さん

——井上さんはいかがでしょうか?

井上:鳥谷さんが言うように、取引先も含めて巻き込んで、協力しながら成果を出すことに自分も重点を置くようになりました。なぜかというと、ベンチャーは人が圧倒的に少ないので、協力する時は力を合わせないと前に進めない場面があるんです。みんな「食で世の中を変えたい」という思いでつながっていて、細かな考え方や行っている事業、エンジニアやデザイナーなど様々なメンバーが在籍していて担当業務はまるで違っても、必要な時は全力で協力する。その光景を目の当たりにしてきたことが今も活きていますね。

ベンチャーで小さな成功体験を積み重ねたことで、もっとワクワクするチャレンジを常にしたいというマインドになったことも変化の一つ。大きな開発やプロジェクト案件があれば、すすんで立候補するようになりました。選ばれるのを待つのではなく、自ら入っていくスタンスになった感覚があります。

それから、積極的に勉強するようになったことも変化でしょうか。移籍前はあまり外の世界のことを学んでいなかったんですよね。ベンチャーで働いて感じたのは、知らない世界や用語、考え方がまだまだあるということ。食のテクノロジーやサステナビリティやビジネスについて知らないことばかりで、ベンチャーでは積極的に勉強しないと仕事が進まないことがありました。それが戻ってからも習慣になっていて、未知のものに遭遇しても「学べばなんとかなる」と思うようになりましたね。

鳥谷:自ら学んで、事業に活かしていくことは大事だなと思います。私も移籍中、ブロックチェーンの勉強会をはじめ、色々なセミナーに参加しました。貧乏性なので、帰任後も知識が抜けてしまわないようにプログラミングを勉強し続けています(笑)。

今はサステナビリティの勉強で手一杯で、なかなか他の分野までは手が回っていない状況です。それでも、企業経営のにおけるESG視点でのマクロな知識から、学生団体の取り組み、環境活動家の方々の発信まで、サステナビリティやSDGsについて幅広くキャッチアップするためのスキルは、ベンチャーで養わせてもらったと思っていますね。

チャンスがあればいつでも取り組めるように     

——ベンチャーでの経験を経て、お二人が大きく変化していることが伝わってきました。最後に、それぞれの今後の目標を教えてください。

井上:まずは現在取り組んでいるジョイントベンチャーのゼロイチの立ち上げをしっかり成し遂げたいです。それが短期的な目標です。中長期的には、グループ全体の再開発や、新たな大規模プロジェクトが立ち上がろうとしているので、そうした全社に関わるプロジェクトでベンチャーのアセットを使ったイノベーションに携わりたいです。経験を、しっかりカタチにしていきたいですね。

鳥谷:三越伊勢丹におけるサステナビリティ推進の目標やポリシー、実行のためのガイドラインを設計したので、起案者として責任を持って毎年着実に進めていきたいです。同時に、私がいなくても同じ温度感で推進してくれる仲間を作ること、自分がいなくても活動が進んでいくようにすることも目標ですね。そのためにも、これまでに培ってきた社外ネットワークや、今までに積み上げてきた知見の共有を同時並行で進めています。

それから、移籍前からやりたいと思っていた新規事業の創造は今でも目標です。もしもチャンスがあればいつでも取り組めるように、準備をし続けていきたいです!


Fin

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