絶賛 移籍中! 【第4章 「流れ星」を売れない男!?】「流れ星」を売る男 〜早くプロフェッショナルの一員になりたい〜
「移籍者たちの挑戦」シリーズでは、大企業で働く社員が、「レンタル移籍」を通じて、ベンチャー企業で学び、奮闘し、そして挑戦した日々の出来事を、ストーリーでお届けします。
今回の主人公は、NTT西日本から株式会社ALEに絶賛移籍中の梶原浩紀さん。梶原さんは2018年4月から移籍を開始し、現在も移籍先で奮闘中です(※2019年1月現在)。そんな梶原さんのストーリーを連載でお届けしていきます。
<過去記事>
第1章 「プロフェッショナルを目指して、 NTT西日本からベンチャーへ」
第2章「第2章 何者になりたいのか?」
第3章「火星でインターネット!?」
ー結局、広報の仕事ばかり
9月も終わる頃、ALEは、衛星「ALE-1」の打ち上げに向けて準備を進めていた。
「ALE-1」には人工流れ星を作り出す世界初の機械が搭載されており、2020年 春、広島・瀬戸内上空に流れ星を流すプロジェクト「SHOOTING STAR challenge」に向けた、初の打ち上げである。
(※ これは、後の2019年1月18日(金)に決行され、打ち上げ成功。各種メディアでも取り上げられ、話題となった)
梶原は、打ち上げ時のメディア戦略を考えながらも、7月のメディアブリーフィング以降、引き続き、様々なメディアからの問い合わせ対応を行っていた。
目の前には広報業務が山のようにある。
業務を捌ききれず、誰よりも早く出勤し誰よりも遅く帰るという日も多くあった。
ALEの注目度はあがる一方。
しかし、梶原は少し焦りを感じていた。
というのも、夏の終わりに自身の課題でもある「突破力」を身につけるため、「2020年の「SHOOTING STAR challenge」の協賛を売る!」と新たなチャレンジを決意したばかり。
しかし、あれから1ヶ月以上経つが、相変わらず広報の仕事ばかりで、協賛獲得に向けたアプローチがまったくできていない。
忙しいから仕方ないとは思わない。
それでも、目の前にある広報の仕事が手一杯で着手できない。
10月には大きな講演会も控えており、こちらの準備も加わり、忙しさに拍車がかかっていた。
10月に行われた「宇宙科学技術連合講演会」に参加した時の1枚
ー「広報が忙しいから○○できない」は一切通用しない世界
10月の講演会も終わり、気付けば移籍も残り半年を切っていた。
ちょうどその頃、ローンディールのメンター細野との面談があり、梶原は、現状の広報業務の忙しさを伝えた。
この頃の梶原は、岡島社長の次にALEについて説明できるまでになっていた。「ALEとして何を発信していったら良いか?」その感覚をしっかり身につけ、自分一人で判断できるようになっていた。
大きな講演会の進行も成し遂げ、梶原の中では充実感もあった。
しかし、細野からの一言でショックを受ける。
「でも梶原さん……。何もチャレンジしていないからね?」
(朝から夜まで日々対応に追われ、頑張っているのに。なんで……)
やるせない気持ちでいっぱいだった。
「だって、広報の腕をあげて帰るために(ALEに)来ているんじゃないですよね? 宇宙ビジネスを(NTT西日本で)やるんですよね? ……そのためのチャレンジしてますか?」
梶原は、悔しかった。
それは自分でも分かってはいること。
焦りを感じつつも蓋をしていたこと。
突破力を身につけるために営業をすると決めたのに、まったくできていない自分。どんなに残業をしても褒められるわけではない。「広報の業務が忙しいから○○ができない」は通用しない世界であることは十分わかっているのに、見て見ぬ振りをしていた。
実は、営業ができていないことはALEでも言われていた。
細野にまで言われたら、何もしないわけにはいかない。
確かに業務の忙しさは自身でコントロールできるかもしれない。
取捨選択したり優先順位をつければ、工数を軽減することができるだろう。
一部を人に任せるとか、自分で手を動かすことを減らせば今よりは時間を作れるだろう。
梶原はできるところからチャレンジを始めることにした。
ーそれでも動けない……
11月に入り、衛星打ち上げに向けて本格的に忙しくなってきた。
広報の仕事も新たなフェーズに入る。
しかし、広報の仕事をすればするほどメンタルが落ちていく。
この頃から、ALEで営業戦略を考えているマネージャーの営業に同行をしたり、相談に乗ってもらったり、なんとか最初のきっかけを見つけようと動いていた。自分なりに協賛プランをまとめ、社内で共有もした。
それでも……。
「これはどうなのか? それでいいのか?」などの突っ込みやダメ出しが入るとそこで止まってしまう。自分の意見を貫くこともできなければ、そこからの改善案がわからず、停滞状態が続いていた。
一向に企業へのアプローチができない。
それを見かねたマネージャーからは、「失敗とか考えないで、どんどんやってみたら?」と言われるほど。
それは自分でも分かっている。
でも、梶原は何をするにも頭で考えすぎてしまうきらいがある。
今回も自分の中でクロージングまでの戦略を固めきれずにいたため、行動に移せないでいた。
「ALEの中でさえ受け入れられないのに、外でもダメだったら……」
そんな恐怖心もあり、先に進めない。
ー悔しくて涙が止まらない
そんな状態のまま、あっという間に11月も終わり、季節は冬に入ろうとしていた。ALEでも、衛星打ち上げに向けて様々な業務が日々発生していた。梶原はそんな細々とした業務を引き受けてしまうことも多かった。
「なんでそれ、梶原さんがやってるの?」
他のスタッフにそう言われたこともある。
もちろん自分の業務ではないことはわかっている。
それでも、今できることで役に立ちたい、自分ができることをしてあげたい、そういう想いもあった。
そして再び、メンター細野との面談の時期になった。
梶原は思うような成果が出せていないため、気が重い。
何も動けていない、という梶原の聞いた細野は、
「……もしかして梶原さん。今悔しい想いをして、NTT西日本で奮起するパターンなんですか?」と投げかける。
もちろん、火をつけようと思って言ったことなのだが、ネガティブになっていた梶原は、「お前はやっぱりできない奴だ」と、とどめを刺された気がして苦しかった。
———その日の帰り。
梶原は悔しくて、涙が止まらなかった。
「自分はダメだ……」
ALEへの移籍が決まったあの頃、宇宙の可能性に心躍らせ、以前より多く空を見上げることが増えた。しかし、最近は下を向くことも増えた。
梶原はすっかり空を見上げることを忘れ、下を向いてただ泣いた。
ー失敗するというチャレンジ
ALEの社内では、衛星打ち上げに向けて、どんどん士気があがっていた。
広報業務も比例して忙しくなる。
梶原は、細野にとどめを刺されてから、少しだけ変化したことがあった。
言われた直後は悔しくてただ悲しかったのだが、確かにNTT西日本に帰った後のことを考えると、「このままでは帰れない。NTT西日本の仲間たちのためにも何か残さねば、何か持ち返らねば……」そんな想いが強くなっていった。
「NTT西日本で宇宙ビジネスを!」という夢は持ちつつも、まずは仲間の士気を上げる環境を作りたいと思っていた梶原は、自身の課題でもあった「突破力」、つまり新しいことにチャレンジし乗り越える経験を自らが行い示すことが大切、そう考えていた。
なのに、踏みとどまっている自分がいる。
このままではいけないと思った。
同時に、営業の結果を出すことに囚われ過ぎていたとも感じた。
「営業で成果を出さなければいけない。そうしないと自分の価値がない」
そこばかりに目がいって、もうひとつの大事な目的を忘れてしまっていたのだ。
「協賛を獲得できればもちろんベストだが、少しでも次につながるような、試行錯誤の跡をALEに残しておくだけでも意味がある……」
そう考えたら少し楽になった。
梶原は、意を決して、とあるメーカーに電話をする。
まだ自分の中でプランはちゃんとは固まっていない。
それでも自分の考えた提案を持って、まずは会いに行こうと思った。
結果、話を聞いてくれるということで、アポイントも取れた。
今まではALEに興味を持ってくれているメディアや企業への対応がほとんどだった。だから基本的にそつなくこなせば、失敗という失敗はない。
でも今回は違う。
相手に興味を持たせるところから始めなければいけない。
もしかしたら失敗するかもしれない。傷つくかもしれない。
それでも、失敗というリスクを背負うことで、小さなチャレンジがスタートできた。
移籍が始まって、8ヶ月経った頃である。
ちょうどこの頃———。
衛星「ALE-1」の打ち上げ日が2019年1月17日に確定した。
ここから、打ち上げに向けて怒涛の日々がはじまる。
→「第5章 ロケット雲を見ながらNTT西日本を想う」 へつづく
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取材協力:西日本電信電話株式会社、株式会社ALE
storyteller:小林こず恵
提供:ローンディール
http://loandeal.jp