「新規事業・マネジメント・組織改革をリードするレンタル移籍経験者たちの”今”」
「社外での経験は、大企業に戻ってからも活かせるのだろうか?」
越境学習に関心のある方は、こんな疑問を抱かれたことがあるのではないでしょうか。
ローンディールは、大企業に所属しながら一定期間ベンチャー企業で働く「レンタル移籍」を提供しています。これまで171人(※ 2021年11月1日現在)がレンタル移籍を行っていますが、ベンチャー企業での経験や、大企業に戻ってからの業務もそれぞれ全く異なります。そこで、レンタル移籍を終えて1年以上経った移籍経験者3名をゲストに迎え、オンラインセミナーを開催しました。新規事業、マネジメント、組織改革をリードする3名の”今”。その一部をレポートでお届けします。
まずはそれぞれから、レンタル移籍に至った経緯、移籍中の経験、現在の業務とレンタル移籍中の経験が活かされていることについて、伺いました。
新規事業推進に活かす、OKRを用いたチームビルディング
1人目は、2019年4月から1年間、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)から株式会社チカク(以下、チカク)にレンタル移籍した木付健太さん。
木付:所属部署の人事から提案を受け、自分自身の成長のため、そして、既存事業の収益源や新規事業創出の人材不足という会社の課題を解決できる人材になるために、レンタル移籍することを決めました。移籍先は「まごチャンネル」という家族間の動画・写真共有サービスを展開するIoTベンチャーのチカクです。マンションの一室で、社長とデスクを並べるような環境で、1年間過ごしました。
BizDevマネージャーとして、42型の大きいテレビを担いで全国に出かけてデモを実施したり、SECOM様との共創プロジェクトという新規事業のリードなどを通し、「まごチャンネル」売上の最大化に微力ながら貢献できたと思います。それらは元々の営業経験も活かせた業務でしたが、他にも、年間約100人のユーザーインタビュー、インターンの採用、プレスリリースの原稿作成など、あらゆる仕事をさせてもらいました。
2020年4月にNTT Comに復帰した後は、新規事業の部署で、2つの新規事業立ち上げと、2つのプログラム運営を担当しています。新規事業として立ち上げた3D-Viewで建設・製造・あらゆる現場のDXを推進する「Beamo」は、2021年8月に無事にリリースも終えました(※現在はグループ会社に移管)。プログラム運営では、オープンイノベーションのプログラムの事務局として、新規事業を起こしている人のメンター活動も行っています。
これらの業務の中で、特にレンタル移籍中の経験が活かせたと思うのは、OKRを活用したチームビルディングですね。チカクではかなり厳密に運用していたので、梶原社長のモノマネから取り入れていって、徐々に社内に浸透させることができたと思います。
「チームのアウトプット」を重視するマネジメントスタイル
2人目は、2020年4月から半年間、日本電気株式会社(以下、NEC)からケイスリー株式会社(以下、ケイスリー)にレンタル移籍した、宇佐美絢子さん。
宇佐美:私は社内公募に手を挙げる形でレンタル移籍に挑戦しました。入社以来、NECの技術やSEは凄いと思っていたのですが、iphoneが発売された時、なぜ何の後ろ盾もなかったAppleにできて、技術も人も揃っているNECにできないのかと悔しくて、そんな思いをずっと抱えていました。レンタル移籍の話を聞いて、NECで世界を変える道具を作るヒントを得ようと飛びつきました。
移籍先は、市民本位の行政サービスの実現につながる事業の研究開発や導入支援を行うケイスリーです。移籍中、特に影響を受けたのは、取締役(CFO兼GovTech事業統括責任者)でもある上司のチームプレーを重視するマネジメントスタイル。役職や経験に関わらず、組織にとってベストな選択であれば、その人の意見を尊重する人でした。移籍前なら偉い人に物申すなんてできなかった自分が、「チームのアウトプット」を重視して躊躇せず行動できるようになったのは、彼の影響が大きく、とても大きな変化でした。
今は、5人のマネージャーとして、既存事業に加えて新規事業開拓を行っています。移籍中の経験を活かして「チームのアウトプット」を意識したチームビルディングをすることで、何にでも挑戦し、成果もしっかり出せる勢いのあるチームになってきました。ケイスリーでの経験がなかったら、独りよがりのマネジメントを続けてしまっていたと思います。
1%の改善のための、組織風土改革
3人目は、2019年10月から1年間、パナソニック株式会社(以下、パナソニック)から株式会社YOLO JAPAN(以下、YOLO JAPAN)にレンタル移籍した濵田広大さん。
濵田:社内で行われた中堅社員向けの社内研修で、「人生100年の働き方を考える」という話を受けて自分自身の働き方を見つめ直し、パナソニックの外に飛び出して挑戦してみようと決めました。移籍先は、外国人が日本に来てからのライフサポートを行うYOLO JAPANです。ホテル・レストラン・イベントスペースを設けた複合施設「YOLO BASE」のイベントプロデューサーを任され、各スペースの連携イベントを企画し、レンタルスペースで月約100万円の売り上げを立てることがミッションでした。
イベント運営は全くの未経験でしたが、様々なイベントの企画から会場運営まで、必死にやりました。パナソニックでの数十億の売上目標に比べたら…と思っていたはずの月100万円の売上がなかなか達成できずにいる時に、コロナで全イベントが中止。これは辛かったですね。収支が厳しくなり、ホテルにも収益性の改善を求めたり、雇用を生み出す側の立場のはずが、外国人メンバーに休業を言い渡したり…。そんな状況下で、経営者の方々と同じ目線で会話できたことや、「最初からうまくはいかない」という前提で始めるという精神が、新しい事業を始めるときの大きなコツであることも学びました。
復帰後は、元々いた水廻りシステム関連の部署に戻り、レンタル移籍で得た考え方や仕事の進め方を取り入れながら働いています。例えば、いきなり200億円の事業を作ることはできなくても、製品をより良くするための1%の既存事業の改善で1億円や2億円の収益性向上に繋げることはできるんです。そのために心を燃やし、周りに着火させて周囲を巻き込むことが必須だと思い、今もレンタル移籍の体験談を社内の色々な部署に対して話し続けています。また、「お風呂好き」Teamsチャンネルを開設し、グループ会社内でバスルーム(お風呂)に関連する情報共有をするオンラインサロンを月に1度開催し、毎回150名近い参加者が集まるほどになりました。
ベンチャーとの違いをふまえ、大企業でどう立ち回るのかーパネルトーク
続いて、モデレーターの原田(株式会社ローンディール・代表取締役)や参加者からの質問にも答えてもらいながら、登壇者とのパネルトークを行いました。
ー会場からの質問「ベンチャーに行ってみてよかったですか?人に勧められますか?」
濵田:100%良かったと言い切れます。人生が変わりました。色々な人との人脈ができたことも良かったです。
宇佐美:行ってよかったし、同じように感じているNECのレンタル移籍仲間とも、どうすればベンチャーでの学びをNECで取り入れられるかと話したりもしています。人に勧められるかどうかでいうと、ある程度はタフじゃないと厳しいと思います。
木付:私も行ってよかったし、お勧めできます。タフじゃないと厳しいのは確かですね。正面から受け止めて、やり切らなくてはいけない。勧めるとすれば、若手よりも、10年目や15年目など、大企業の仕組みをわかっていて、違うやり方ができるんじゃないかと社内でもがいてるような人ですね。ベンチャーのマインドを習得して復帰後に実行に移しやすい年次だと思います。
ー会場からの質問「メンタルのタフさ以外に、越境するために必要な性格面での要素はありますか?」
木付:探究心というか、これでいいのか、もっと良くならないのかと考える癖は必要だと思います。チカクの梶原社長にも「毎日考える時間を1時間くらい作ろう」と言われていました。どんなに業務で忙しくても、今一度振り返って考える時間を多く持ち、もっとできることはないか、会社のためにできることはないかと考えることが大事だと。
濵田:コミュニケーションをとることから逃げない気持ちです。辛くなると人と関わりたくないって気持ちが出てくる時もあるけれど、移籍中はそこから逃げたら終わる。それができるかどうかですよね。大企業でもどこでも変わりないかもしれませんが、改めてコミュニケーションが大事だと思います。私の場合、外国人が多かったことも関係しますが。
ー会場からの質問「働いている人たちの努力量や仕事に対する思いは、ベンチャーと大企業とで差がありますか?」
木付:仕事に対する当事者意識は、ベンチャーの人は特に強いと思いました。自分の行動ひとつが会社に大きな影響を与えてしまうかもしれないという意識が強いと思います。熱意や仕事に対する思いは大企業の方とあまり変わらないかもしれません。
原田:数字のリアリティを感じやすいということはありますよね。濵田さんは、コロナ禍で収益が苦しくなった時、自分がコストになるなら帰った方がいいんじゃないか…なんて発言もありましたよね。そういった感覚って、今も活きていますか?
濵田:はい。その感覚のおかげで、費用をかけず小さく始めること、失敗する前提で始めること、という2つの精神を今も大事にしています。
原田:「お風呂好き」コミュニティを立ち上げてみたら、700人くらいがメンバーになったという話がありましたが、そういうものを求めている社員がいたということですか?
濵田:「炎上したらやめますね」と宣言してお風呂好きコミュニティ始めてみた結果、みんなが求めていたのだと分かった感じです。YOLO JAPANでは、日本に住む外国人の皆さんと仕事をする中で、繋がりを強め、情報を伝播させるためにコミュニティ作りが大事だと感じていたので、戻ってからもコミュニティ作りができて良かったです。
原田:マネージャーとしてレンタル移籍の経験が活きていることは?
宇佐美:心理的安全を確保するために、忖度させるようなチームにしないという意識ですね。私自身が忖度せず意見するようにしていたら、他のチームメンバーからも徐々に率直な意見が聞けるようになってきて、、日々活きていると感じます。上司と部下という縦の構造って、実は役職が下の人たちが勝手に作ってしまっている部分も多いんですよね。ケイスリーでは、経営層と若手の間を橋渡し役だったので、今も幹部と若手の間に入って、コミュニケーションを活性化させたり、新入社員がやるような飲み会の幹事なども率先してやることで、同列なんだという意識を根付かせるようにしています。
ー会場からの質問「大企業に戻って一番苦労したことはどんなことですか?」
木付:復帰後に新規事業を推進する部署に配属されたのですが、いつまでにどういう状態にしたいかという意識が、メンバー間で合っていなかったことですね。上層部からミッションが与えられても、いつまでに短期的な目標を決めて誰がどこまでやる、という整理ができない。そこで、チカクでも実施していたOKRを使って、まずは3ヶ月スパンくらいでやることを整理しました。OKRなんて知らないという反応もありましたが、勉強会やWinセッションをやったりすることで、徐々に理解してもらえたと思います。
原田:そこにはどんな工夫があったんですか?
木付:とにかく丁寧に粘り強くコミュニケーションを取っていきました。それまでNTT Comでは、わからない人に対して粘り強く説明する経験はあまりなかったんです。既存事業の場合は、何か問題が起きても社内に答えを持っている人がいるから、その道のプロを探せば良かった。そうではなく、ゼロから立ち上げる新規事業の場合は、自分が説明して粘り強くやらないと前に進まない。だから投げ出したり、強引に進めるのではなく、丁寧に説明するように気をつけました。
ー会場からの質問「ベンチャーでの成長は、やはり自社では得られないものですか?」
宇佐美:私は難しいと思います。自社の同じ風土で育った人たちの中では再現できないのではないでしょうか。それが例え子会社であっても。では、ベンチャーに行けばそれでいいのかというと、ただそれだけではだめで、メンターが伴走して内省を促してくれるということも重要だった気がしています。挫折を味わった後、しっかり内省することで次に活かして回復することができたので。
木付:確かにベンチャーに1年間行った経験はもちろんですが、メンターと一緒にその週や月にやったことを振り返り、翌週や翌月どうするかという内省を繰り返すというシステムのおかげで成長できた気がします。
濵田:違う環境に行くと、覚悟が決まりますよね。学ばないと、成長しないとという覚悟、そこに伴走してくれるメンターの存在は大きかったですね。
ー会場からの質問「ベンチャーのいいところは多数あるかと思います。逆に、外から大企業を見た時に、恵まれていることや強みは何でしょうか?」
宇佐美:ベンチャーでは、営業電話を300件かけてもなかなか話を聞いてもらえなかったけれど、NECと言うだけで話を聞いてくれるところでしょうか。会社のブランド、看板の大きさを感じますね。
濵田:ヒト・モノ・カネ・情報などのリソースが揃ってるところです。それを活かして仕事しないと!と思います。
木付:私もリソースだと思います。とにかく、人!NTT Comには様々な分野のプロフェッショナルがいらっしゃるので、彼らを巻き込みながらこれからも新規事業を進めて行けたらと思っています。
原田:皆さん、レンタル移籍中の経験を活かそうと今も試行錯誤を続けられている様子、とても頼もしかったです!今日はありがとうございました!
Fin
それぞれのレンタル移籍中のエピソードも、下記よりご覧いただけます。
●木付さん
●宇佐美さん
●濱田さん
【ローンディール イベントのご案内】
「はみだして、ためそう。」をコンセプトにした、ローンディールのプロジェクトの1つ、はみだしの実験室「4th place lab」によるイベント第4弾です。
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計57社 171名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年11月1日実績)。→詳しくはこちら