上司たちが本音を語る!「ベンチャーに部下を送り出したら、チーム力がアップした」
非連続なベンチャーだからこそできる経験を持って帰ってきて欲しい
――今回はベンチャー研修に参加した3名の上司の方に集まっていただき、本音をお聞きします。まずはベンチャー研修に部下を送り出すにあたって、どのような変化を期待していたのでしょうか。最初に創業15年で超小型人工衛星の開発・製造を行う宇宙ベンチャー・アクセルスペースに行った杉原壮留さんの上司・中村さんからお願いします。
中村:私は産業エネルギー統括グループで杉原さんと一緒に仕事をしていましたが、芯がしっかりしており、仕事においても、とても信頼がありますね。杉原さんはベンチャー研修にすごく興味を持ち、「何としてもやりたい」と積極的な気持ちで参加していました。
研修先の企業は宇宙ベンチャーということでまったく違う業種ですが、彼なりにじっくりと考えて選んだ、という背景があります。私としては、今の会社で今のやり方だけがすべてではないと思っていますので、まったく違う仕事の進め方を学んできてほしい、そして戻ってきたら学んだことを社内で展開してほしい、という思いで送り出しました。
また、ベンチャーという環境下では、自分の責任で動く機会が自然と多くなると予想していました。自らの意思で動き、なおかつ周りに動いてもらうためにどうするのかという、リーダーシップのあり方についても考えて学び、経験してほしい。そういった期待も大きかったですね。
――続いて、学童事業を展開しているNPO「放課後NPOアフタースクール」に行った前原篤さんの上司だった松本さんにお願いします。前原さんはもともと人事のスペシャリストですが、研修先でも1年間にわたって人事企画を担当したそうですね。
松本:前原さんは経験者採用で弊社に入社してきたのですが、前職でも大企業で人事の仕事をしていました。順調にキャリアを歩んできたようにお見受けしていました。
常に大事な仕事を任されて結果も出していたのですが、それによって気負ってしまっている部分もあるんじゃないかなと。そういうものをうまく捨て去れると、よりステップアップできるんじゃないかと思ったんです。せっかく1年間外に出るからには、人事業務にとどまらない、何か自分の価値観がひっくり返るような経験をしてきてほしい、という思いで送り出しました。
――長い目で前原さんを眺めたときに、価値観を少し揺らすようなことを経験した方が良さそうだな、と思われたんですね。
松本:そうですね。いずれはマネジメントを担うことが期待されていると思いますので、若いうちに挫折などもいろいろと経験してほしいなと。このベンチャー研修という制度は、1年間という限られた期間だからこそ、何かを成し遂げられるという部分と、だからこそ勢いでチャレンジしやすい、という良さもあると思いました。
もうひとつは、中村さんと一緒で、リーダーシップも身につけてほしいなと。たとえば、チームメンバーや若手社員に「任せることは任せる」「必要なら支援する」というようにチームで仕事をすることを経験してきてほしい、という思いもありました。
――最後に創業2年のPathfinderにレンタル移籍をした横井大輔さんの上司・橋本さんにお願いします。こちらは片道レンタカーの事業を展開しているベンチャーですが、横井さんにはどんな変化を期待されていましたか。
橋本:横井さんは、和歌山にある製油所(現和歌山製造所)でプラントエンジニアをしていました。グループの中では、年齢的にも経験的にも中間~ベテラン層的な立場で、ひとりでなんでもこなせてしまう器用さがありましたし、実際にひとりで業務を完結することも多かったので、ベンチャーでは、いろんな人と関わって、周りを巻き込んで業務を進めていくことを身につけてほしいな、と。
もうひとつ期待したのは、失敗を恐れずに自分の考えやアイデアをどんどんぶつけて物事を進めてほしい、ということです。なるべく早い段階で、少しくらい失敗してもいいんじゃないかな、と思っていました(笑)。
というのも、我々は製油所で危険物を取り扱う仕事をしていましたので、失敗が許されない業務も多いのですが、多少失敗しても即座に改善し成功へ向けてのスピードを重視する業務も存在します。ベンチャーはトライアンドエラーを繰り返しながら成功に向けてやっていくというイメージがありますし、失敗を恐れていたらプロジェクトが進んでいかない。そうした経験を積めるのは非常にいいことですし、そうしたやり方をぜひ身に付けてほしいと考えました。
周囲を巻き込んで動かす、リーダーシップが身についた
――みなさんに共通するのは、「人を巻き込んで動かすリーダーシップを身につける」など、なかなか自社ではできない経験を積んで欲しい、ということですね。ベンチャーから戻られた今、そうした期待には応えてくれていると感じていますか。
中村:杉原さんはどちらかというと控えめな性格なんですが、戻ってきたら雰囲気がガラリと変わっていました(笑)。
責任ある仕事を任せてもらったことに加え、約160人の社員全員と一対一で面談をしてコミュニケーションを図ったことも、彼を変える大きなきっかけとなったようです。新しいことを経験して視野が広がり「やりたいと思っていたことをちゃんとできた」ということが自信につながり、強い意志を感じさせるオーラを放つようになっています。
4月からは新しい部署に異動しましたが、こうした経験は今後かなり活きていくんじゃないかなと思っています。
――ベンチャーに行ったみなさんは業務の様子や気付きなどを記した「週報」を書いていますが、杉原さんは移籍当初の自己評価がすごく低かったと伺いました。
中村:新しい環境でプレッシャーを感じ、苦労していたようですね。でも、だんだんと経験を積み重ねていくなかで仕事を理解し、自己評価が高まっていったように思います。最後は自分がやるべきミッションの達成が見えてきて、1年間やりきったという充実感を感じていたと思います。
――松本さんはさきほど「価値観をひっくり返す」経験をしてほしいとおっしゃっていましたが、実際に前原さんはそのような経験ができたのでしょうか?
松本:初めての経験の中で戸惑いを感じたり、これまでは「人からどう思われるか」が気になって発言できなったことも、「どう思われてもいいから言ってみよう」など、自分をさらけ出せるようになったという変化がみられました。これはご本人にとっても大きかったのではないかと想像しています。
前原さんはもともと物事をきっちりと進めるタイプなので、当初は組織の中でどう振る舞うかなど、深く考えてから動いている様子でした。でも、「限られた1年間」であることを理解し、徐々に自分をしっかりと出せるようになると、人事系の枠を飛び出してさまざまな仕事も任せてもらえるようになり、良い経験をしていましたね。
戻ってきてからは、1年間で感じ取ったことを少しでも自分の中で実践しよう、組織に還元していこうという意識が見られます。以前は後輩に指導していくことの難しさを感じていたようでしたが、多様な人材がいるNPOでの経験を通して、さまざまな気づきがあったようです。そうした経験を今後社内で還元できるよう、私もサポートしていきたいと思っています。
――なんでもひとりでできてしまうという、横井さんはどうでしょうか。どんな変化が見られましたか。
橋本:ベンチャーでの横井さんは、とにかくいろんな方と関わる機会が多く、自分が面倒を見ないといけない部下のような存在も抱えている立場でした。
彼にとってはそれがすごく新鮮であり、かつ苦労したという話は聞きましたね。当初は、どうしても自分でやりすぎてしまい、人に任せきれないところがあったようですが、それではいけないことに気づき、いろいろなメンバーにある程度任せて後はフォローしていく、というやり方を身につけたようです。試行錯誤しながら、少しずつマネジメントの手応えをつかんでいった様子でした。
また、片道レンタカーという事業なので、車の回送やメンテナンス等の仕事も沢山あり、最初の頃は大変だったようですが、だんだんと「全然大丈夫です」と言うようになってきたことにも、驚かされましたね。取り組んでいることを自分事化でき、精神面と体力面、両方を鍛えていただいたのかなと思っています。
残ったメンバーも力をつけ、チーム力がアップした
――続いては、メンバーがベンチャーに行ったことで残ったメンバーや組織に起きた変化についてお聞きしたいと思います。ベンチャーに行った方の分の仕事を残ったメンバーがやらなければならないと思いますが、負担が増えて大変だったのか、プラスになることがあったのか。この辺りいかがでしょうか。
中村:杉原さんはこれまでチームの中心的立場で仕事を進めてくれていたので、彼が抜けた当初は、周りのメンバーの業務が増えたのは事実です。でもそれはある意味、メンバーが仕事の幅を広げるチャンスだったと思っています。また、チームリーダーを中心に、お互いフォローし合うなど、いろいろと工夫をしてくれ、結束力も高まりました。
橋本:横井さんは自職場では経験も長く知識も豊富であり頼りになる存在で、野球で言うと4番でピッチャーという存在ですし、他のメンバーもそれぞれの役割があります。なので、彼の代わりをそのまま誰かに任せられるかというと難しい。でも業務を仕分けして、項目ごとに見ていくと、それぞれの役割を担えるメンバーがいることに気づきました。
そうして仕事を振り分けていくうちに、「今回は自分がこの仕事をやる」「自分は今までこっちをやっていたけど、こっちの仕事もやってみようかな」と、自ら動く意識が芽生えていったのを感じましたね。
メンバーの機運を上げるために、横井さんの「週報」も活用していたんです。彼が変わっていく様子、頑張っている様子をシェアすることで、みんなで穴を埋めようという気持ちが高まっていきました。ローンディールのメンターの方が1名付くんですが、その方は横井さんが困ったことを発信している時もネガティヴな言葉は一切使わずに、常に良い返しをしていました。メンターさんが示してくれた「寄り添う姿勢」は、私自身が部下に接する際の参考にもなりましたね。
――ありがとうございます。最後に上司として部下を送り出した皆さんにお聞きしたいのですが、今回のベンチャー研修はどういう方が利用すると良いと思いますか。
橋本:やはり、挑戦意欲が強い人、独創的な発想を持つような人、それを言葉にして形にできる人ですね。あとは他人の意見や声にアンテナ張って、興味を持てるような人に向いているんじゃないかなと思います。そういう方にぜひ、挑戦してほしいなと思いますね。
中村: 人数も限られていますし、誰でも参加できるようなものではないと思っています。職場の中で戦力になっているという立場で、1年間ほかの企業に移籍するというのは、強い目的意識がないとできることではないですよね。
貴重な1年間を使うわけですから、ただなんとなく移籍して仕事をするのではもちろんダメ。何をしたいのか、何を見つけてくるのか、何を見つけてほしいかを、送り出す側も行く側も、明確にイメージができることが必要だと思います。
松本:お二人のお話、いずれもその通りだなと思いながら、私が一番に思い浮かべたのは、「今の自分が置かれた状況にモヤモヤしている人」にぜひ手を挙げてほしいな、ということです。
最初から強い動機がなくても、応募する時に自分と向き合うことになると思いますので、そうした過程でモヤモヤを解きほぐしていくと、目的が見えてくることもあるんじゃないかなと。
入社後10年ほど経過すると、外の世界がいろいろ見えてきます。特に今の30代は当たり前のように転職する人も多いので、周りを見ていると「自分が今やっていることや、この会社にいることは正しいのかな?」という感覚がわき起こってきてくるのは、自然なことだと思うんです。
でも、転職という形で環境を変える前に「自社に籍をおきながら、ベンチャー企業で経験してみるのもいいのでは?」というのが私の考えです。今の会社で提供されているものをフル活用しながらステップアップしていくという道もあるんだよっていうことを多くの方に知ってほしいですね。みなさんの挑戦を、応援しています。
Fin
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